定年後の人生の模範 東海道一の大親分 清水次郎長と禅 第二章
定年後の人生の模範 東海道一の大親分 清水次郎長と禅
笹良風操
第二章 次郎長にも定年に当る時期があった。
さて何故この座禅道場で元ばくち打ちの大親分であった次郎長のことを語るのかと言いますと、次郎長は48才頃までの人生とその後の人生と大きく変わった道を歩んでおりましてその人生の歩み方が定年まじかか定年を迎えられた方々の参考になるのではないか、という事でお話する次第です。
次郎長の前半生は誠に波乱万丈、何回も生死の境をくぐり抜けて体中刀傷だらけのばくち打ちの生活をしておりますが、後半生は山岡鉄舟に出合いガラリと変わった人生を歩みます。
山岡鉄舟は当人間禅の遠祖に当る人で臨済禅では師家の允可をうけ、武道では一刀流免許皆伝、一刀正伝無刀流の開祖です。戊辰戦争の時官軍の西郷隆盛と会談し江戸城無血開城の話をして江戸を火の海から救った人です。
会談の後西郷がこう言ったといいます。「生命もいらぬ、名もいらぬ、金も要らぬ、といったような人は始末に困る人ですが、あんな始末に困る人ならでは、お互いに腹をあけて共に天下の大事を誓い合うわけにはまいりません。本当に無我、無私の忠胆なる人とは、山岡さんの如き人でしょう」
この禅と武道で鍛え上げた山岡鉄舟と出会った次郎長は、鉄舟の指導のもと禅に打ち込み、ばくち打ちから足を洗って、世の爲人の爲に尽くす人生をおくります。ばくち打ちは畳の上では死ねないとされている中、畳の上で大往生を遂げたのであります。
この人生の大転換を為した時期は丁度明治維新の最中でありまして、日本が大東亜戦争に敗れた時と同じくらいの価値観の大変動の有った時期であります。
戊辰戦争の時ばくち打ちは命知らずの戦闘能力を買われ、多く官軍に編入されます。次郎長にも勧誘の使者がきますが、次郎長は分を知っておりまして決してその話にのりませんでした。
話に乗ったヤクザの大半は官軍勝利の後殺されておりますので、実に危ない橋を渡り切ったのであります。
現在の世の中を見ますと団塊の世代と言われる人々は次々と定年退職する時期になっており、その後の人生を如何に生きるべきかという深刻な問題を抱えているのであります。
今までの仕事と訣別し新しい人生を探ろうとするとき、どこに人生の目的を求めたら良いか?手前味噌になりますが私は心を磨き世間に貢献する生き方こそ求められる晩年の送り方ではないかとおもうのであります。その意味で禅の師匠山岡鉄舟に師事し禅で心を磨き、世の爲人の爲つくした次郎長は模範とすべきではないかと思うのであります。
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