老師通信

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2020.06.28 Sunday

座禅と徒然(つれづれ)(4)〜〜座禅時の線香について〜〜

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座禅と 徒然 ( つれづれ ) (4)

〜〜座禅時の線香について〜〜

丸川春潭

  1. はじめに
  2. 耕雲庵英山老師と線香
  3. 磨甎庵劫石老師と線香
  4. 参禅用の線香
  5. いろいろな線香と出会い
  6. おわりに

 

1. はじめに

 線香には大きく分けて匂い線香と杉線香の二種類があります。匂い線香は、椨(タブ)の木の樹皮を粉末にしたものに、白檀(びゃくだん)や伽羅(きゃら)といった香木の粉末や他の香料、炭の粉末を加えて練り、線状に成型・乾燥させたものであり、我々が日常の座禅時に使っているものです。杉線香は、杉の葉の粉末にしたものにノリを加えて練り、線状に成型・乾燥させたもので、香木や香料を使用した匂い線香と違い香りはないけれど安価であり、ヤニにより大量の煙(煤)を出すため、外での墓参や宗教的な慣例として煙に意味を持たせる場合に使っています。

 人間禅における線香は匂い線香ですが、その使い方は、静座会や摂心会における静座時と参禅時とにそれぞれ異なった目的で使われております。会員が自宅において一人で座る時はその前者とほぼ同じ目的であり(少し違った要素も入ってきますが)、大部分の人は自宅でも線香を焚いて坐っています。ただこの匂い線香といってもピンからキリまでありなかなか奥深いものがあります。

 香は邪気を払うと云う意味や尊きものを敬い信を献ずる意を込めて古くから祭礼とか法事によく使われています。また眠気を覚ますこととか精神を高揚させるということでも宗教行事に使われてきたと云う説もあります。

 また線香は時を計るために使うと云うことが寺院のみならず庶民的な生活の場でも古くからあります。

 

2. 耕雲庵英山老師と線香

 耕雲庵英山老師の著書『数息観のすすめ』には、線香の長さは22cmで、一炷香(1本の線香がともっている間)の時間は44分となっています。そしてその線香は多分菊世界(写真:孔官堂製)だったと思います。小生が入門しそして本部の摂心会に参加し始めた昭和30年代はどの摂心会でも菊世界を通常は使っていました。老大師がこのご著書を書かれた昭和20年代においても同様だったと推定します。

 菊世界は原料に白檀とか伽羅を使用せず、いわゆる良い香りを嗅ぐためのお香ではなく安価な大衆的な線香です。この菊世界の一炷の燃え尽きる時間が44分だったと云うことで、まさに時間を計るという意味が生かされて使われているのです。

 

3. 磨甎庵劫石老師と線香

 小生が学生時代に中国支部摂心会(現岡山支部、耕雲庵英山老師主宰)に参加し、開枕(22時)後に岡山大学の学生(絶学、無為、小林ら)との夜座において、参禅の時の献香に使う高級線香(後述)の残り(短くなって残った線香)をかき集めて夜座の真ん中で焚いて夜の12時過ぎまで坐った時期がありました。

 このことを数年経って磨甎庵劫石老師に話したところ大変興味を持たれ、それ以後線香の銘柄の検討を命ぜられることになりました。その当時はネット検索もできず、仏具屋さんをいろいろ回って調べるしかありませんでした。

 最初は松栄堂の京自慢を磨甎庵老師は好まれて使われ、

次に春陽に行き、最後は同じ松栄堂の微笑にまでレベルが上がって行かれました。

 また後年老師が80歳前後のころ、小生が進級お礼に同じ松栄堂の最高レベルの正覚を差し上げたところ大変喜ばれ、大事に使われていたようで最後に数本ですが遺されておられます。

 磨甎庵老師は座禅時の線香を、本来のお香として厳密に扱われておられました。小生が30代のころ人間禅では線香を焚かないで時計で坐る人がかなり居られましたが、磨甎庵老師は「春潭!坐る時は線香を焚いて坐るのが良いぞ!」と語気を強めておっしゃったこともありました。単なる時間ではなく線香一本の命と一緒に坐るということかなと密かに自分でその意味を工夫などしたことを思い出します。特に線香の最後の燃え尽きる時の有様はまさに人間の死と同じであると。燃え尽きる時の匂いは線香の匂いとは異なる灰の匂いがし、最後にポット明るく耀いてすっと消えるのです。

 

4. 参禅用の線香

 参禅時に献香用に使う線香は仏に供えるという第一義の目的があり、人間禅では最高の線香が選ばれて使われる伝統になっています。したがって禅堂で使う線香が菊世界の時代でも、すなわち耕雲庵老師の時代においても最高級の線香(天司香)を使っていました。昭和30年代の中国支部でも天司香でした。赤いラベルの箱で太く短い黄色みを帯びた豊かな香りの線香でした。高価なものでしたので、参禅が終わったら必ず残りを侍者が回収して直日に返すことが習わしになっており、夜座で学生達が頂いて使っていたのはこの参禅の時の焚き残った短い天司香です。

 その天司香を本部でも永年使っていましたが、20年?ほど前に天司香の製造が中止になり、急遽その代替を決めなければならなくなり、千鈞庵老師といろいろ検討した覚えがあります。従って天司香はまさに幻の名香で語り草でしかありません。

 

5. いろいろな線香と出会い

 小生の20才代から30才半ばまでの自宅での線香は一番安くて手に入りやすい菊世界でした。その後、磨甎庵老師とのやり取りの中で、京自慢とか春陽とかを使った時もありました。東京支部の祖鏡居士から箱入り線香(聚香国)を3回も頂きましたし、萬耀庵閑徹老居士からは高級な長尺の微笑を一箱頂いたこともあり、つい最近では荻窪支部長の中川香水禅子から白檀線香を頂きました。

 線香の香りの原料は白檀と沈香が代表的なもので、この香木の入る量によって値段が決まってきます。沈香は沈水香を短縮したもので、木なのですが水に沈むほど比重の重いのでこの名前がついているのでしょう。伽羅というのは沈香の一種で、沈香の中でも特別に貴重で高級なものです。これら白檀、沈香、伽羅がどのくらい入っているかによって価格が決まっており、こういう香木を使わない線香(菊世界、蘭月)に比べて一桁二桁も価格が高くなります。

 最近気が付いたのは、香木の入った高級線香に沈香(伽羅)系統と白檀系統の二種類あるようで、香りの質が大きく異なっています。一般的には沈香(伽羅)系の方が人気があり庶民では手の届かないような高価なものもあります。好きずきだと思いますが、どうも小生は白檀系に馴染みがあり好みが合うようです。価格はその資源の存在量によって決まり、伽羅が資源的に少なくダントツに高く年々高騰しているようです。

 朝晩線香を焚いてその前で坐るということを考えると、健康についても配慮する必要があります。健康の観点から考えると線香の煙も煙草の煙の害と同じで、煙は吸わないに越したことはありません。線香の銘柄によっても害に差はあると思います。黒い煙が多く出るとか刺激臭があるとか咳き込むとかは特に遠ざけた方が良いでしょう。一般的に香木が入り高級になるほど害は少なく、安価なものほど注意しなければならないと考えられます。燃えた後の灰の色が黒いと炭素(煤スス)が多いと判断できます。医学的な根拠はありませんが、白檀系は香りもソフトで炭素系の煤も少なく健康的だと小生は考えています。

 

6. 終わりに

 坐る前に線香に火を付けますが、その時に不思議にこの線香との出会いの所以やご縁を思い出します。

 そしてその火を付けた最初の線香の香りが一番印象深く、そこから数息観が開始されることになります。三昧になれば線香の香りも全く意識から消えてしまいます。実際にも嗅覚は最初だけが強く知覚しますが、直ぐ馴れて鈍感に感じなくなるものです。他の視覚、聴覚、味覚等の感覚よりも一番早く順応して知覚が急速に低下するように思います。しかし臭覚は五感の中の一つですが、一番精神性に近いと思います。臭覚に集中するあるいは臭覚を大事にすることは人間性を深めることになると思います。

 毎日座禅する部屋が決まって居れば何年か経つとその部屋に香りが沈積して残り、外から帰ってその部屋に入った一歩のところで微かに残香が香りホッと安らぎを感ずるものです。

 線香は香りのみならず煙も雰囲気があり、煙の流れには三昧への誘いが観ぜられます。すなわち煙の揺らぎには人間の知性を超えるものがあり、香りと相まって感性の世界に引き入れてくれる働きがあるように思います。数息観三昧を深める道具立てを斯くの如く線香はいろいろ備えており、だから歴代の祖師方も線香を常に愛用されてきたのでしょう。

 残りの人生の一日一日 線香の深さを味わって生きて行きたいものであります。合掌

 

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