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2020.07.26 Sunday

入門当時を振り返って

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入門当時を振り返って

延 時 真 覚

1.初めて摂心会に参加

 自性寺での早朝坐禅会に参加するようになり、2年を経過した頃、鎮西道場の2人の先輩居士から、「本格の修業をして見ないか」とのお誘いがありました。

 両居士から、「道力は坐るだけでも身につくが、道眼を磨くには法脈の正しい師家に参禅しなければ駄目だ」と口をすっぱくして言われました。

 しかしながら、早朝坐禅が結構楽しく、自己満足しておりましたので、正直な話、このお誘いに躊躇しておりました。何度目かのお誘いで、修行の厳しさ・困難さには若干の不安があったものの挑戦してみようという気になり、昭和52年の夏、第148回の鎮西道場摂心会に早朝坐禅のメンバー2人と私の3人が参加させて頂きました。

 始めて摂心会というものに参加させていただき、本格の修行の厳しさというものを体験させていただきました。摂心というのは「心をおさめて散らさず」という意味で、一週間、真剣に坐禅の修行に打ち込むことでございます。

 初めは、膝や腰が痛くなり、静坐に集中できませんでしたが、四日目を過ぎると足の痛みにも慣れるようになり、かなり集中して坐ることができるようになりました。

 一方、摂心中、作務といって道場周辺の草取り、樹木の伐採といったような作業を行います。作務にも軽い作務から重労働の作務まで色々ありますが、20歳以上年上の先輩居士方の働きぶりには眼を見張るものがありました。

 真夏の太陽のもとで汗だくで骨身を惜しまず懸命に作務をされる姿をみて本当に驚いたものでございます。

 今から考えますと、自性寺早朝坐禅会での2人の先輩との出逢いがなかったならば、「本当の自分を知る」という得難い法縁にめぐり合うことはなかったであろうと思うとき、本当に有難い出会いであったと感謝しております。

 

2.本格の坐禅修行

 昭和52年12月、鎮西道場第149回の摂心会に於いて、鎮西道場の担当師家に入門をお許し頂き、正式に禅の修行をすることになったのでございます。

 最初の公案をいただき、とにかく死に物狂いで参禅しました。『公案』というのは、『本当の自分を知る』ために、お師家さんから私ども学人に与えられる問題でございます。

 入門して最初に与えられる『公案』のことを『初関』と云っております。先輩から、「初関を持っている者は、必ず参禅するように!! 参禅できないということは、真剣さが足りないからだ!! 」と厳しく言われておりました。

 しかしながら、室内に入っても、入っても、鈴をふられるばかりで3日目頃から完全に行き詰まってしまいました。それでも「何が何でも参禅するんだ!! 」という覚悟でおりましたので、順番が来たら必ず立ち上がって、参禅したものです。見解に自信がない時など、喚鐘を叩いて隠寮へ向う廊下を歩きながら真剣に工夫することもありました。

 又、一日の行事が終わった夜10時以降に、「これだ!!」という見解が出るまで必ず随坐をして公案の工夫に骨折ったものでございます。

 有難かったのは、先輩居士の方々が私たち入門者の髄坐に付き合っていただいたことでございます。

 この髄坐にどれほど励まされたことか、今思い出しても本当に有難く、感謝の一語に尽きます。四日目の夜は、徹夜で夜坐をし、12月の寒い時でございましたが眠くなったら、風呂場に行って頭から水をかぶり、また室内で集中できないので庭の坐禅石に座布を敷き、黙々と坐ったものでございます。とにかく公案三昧になって、死物狂いで坐りました。こうして摂心会の後半になると身も心もクタクタになりましたが、寝ても覚めても公案の工夫に集中しました。

 ある朝等、南小倉駅から中津行きの下り列車に乗ったはずなのに、気がついたら逆方向の小倉行きに乗っており、あわてて、下り列車に乗り換えたこともございました。

 中津駅から南小倉駅まで約一時間を要しますが、この行き帰りの列車の中は、公案の工夫に集中できる絶好の時間帯でございました。

 摂心会が円了して、円了作礼の席で、「この摂心会に参加して本当によかった」と心の底から喜びと感謝の念が溢れ出てまいりました。

 鎮西道場149回の摂心会は、私の坐禅修行の中で大きな節目となったのでございます。

 私の体験から初心者の方に申し上げたいことは、大勇猛心を奮起し、真剣に骨折れば、必ず見性できるということでございます。見性というのは、判りやすくいえば、『本当の自分に気づく』、すなわち『本当の自分を自覚する』ということでございます。見性するためには、通り一片の努力ではなく、真剣に骨を折るという覚悟がどうしても必要となります。

 

3.坐禅の基本

 坐禅も柔道、剣道、茶道、書道などの諸芸道も、基本に基づいた正しいやりかたと正しい方法が大切でございます。

 坐禅の基本は、数息観であり、呼吸を数えるという一点に集中し、これに成り切る事でございます。基本のとおり素直に実行し、努力すること、それが修行であり、坐禅に限らず道を学ぶ者の心得でございます。

 諸芸道の教えの中に「守・破・離」と言われるものがあります。

 「守」、まもるとは、師匠から教えを受けた通りの事を忠実に守り、これを反復して正確に身に着ける段階、つまり基礎・基本を忠実に守って、身に付ける段階、

 「破」、やぶるとは、師匠の教えをすべて自分のものにし、体得した基本や型を意識しなくても自然に発露でき、その上で自分の新しい工夫と努力を加えて、師匠の教えから少しずつ成長してゆく段階、

 「離」、離れるとは、自分の努力と創造力によって、師匠の教えから脱皮すると共に、さらなる精進により、型を離れて独自の世界を創り出していく段階のことをいいます。

 人間禅の出版物である『坐禅のすすめ』という小冊子の中で、耕雲庵立田英山老大師は、数息観を、修練の程度に応じて前期、中期、後期の3段階に分けられております。

 前期は一から百まで数えあげ、次にまた一に戻って百まで数えあげることをくりかえすやり方、

 中期は十までを繰り返すやりかた、

 後期は呼吸を数えないやり方でありますが、私は、これらの3段階は、守・破・離の3段階に当てはめられるのではないかと思います。

 数息観は、三昧力を養う基本であります。正しく静坐して数息観を実地に修錬し、三昧力を養い深めていくこと、これが禅の修行の基本であります。

 この数息観は、一見、易しそうに思われますが、至難の業でございまして、全身全霊を傾注してやらなければならないのであります。

 ましてや、数息観の究極の目標である、数える自己と数えられる呼吸とが不二一如となる後期の段階までたどり着くのは容易ではございません。

 毎日、倦まず弛まず、根気強く、千鍛百錬して数息観の究極の目標である数息三昧の境地を手に入れたいものでございます。

 諸芸道においても、基本の鍛錬を十分にしておかないと、大成は難しいと言われております。

 「お茶」の技術を精神の領域まで高め、「茶道」として完成させた千利休が「規矩作法」の最後に次のようなことばを残し、基本の大切さを伝えています。 “守りつくして破るとも、離るゝとても本(もと)を忘るな”。

 また、アテネ五輪でまさかの一本負けをしてメダルを逸した柔道の井上康生選手は、「もうやめようかと、考えた日もあったが、次の日には、このままじゃ終われないとも思った。そんな日々が交互に訪れていました」と、当時の苦しい胸の内を打ち明けられております。
 しかしながら、再び最重量の100キロ超級への挑戦を決め、練習を再開しましたが、「これから先、どうなるのか」と心が乱れ、柔道に集中できないスランプの日々が続いたそうでございます。そんな時、井上選手の父であり師匠でもある明氏は、徹底して基本からのやり直しの稽古指導をされたそうでございます。
 その結果、井上選手は、平成17年1月9日、日本武道館で行われた嘉納杯国際大会で見事に優勝されたのであります。さすがにシドニーオリンピックを含め、世界選手権を5度制覇した、井上選手でございます。指導者である父明氏の指導を素直に受け入れ、初心に帰って修行をやり直したのであります。
 利休道歌の中に、「稽古とは一より習い十を知り、十よりかえる もとのその一」というのがあり、基本と向き合うことの大切さを教えております。
 坐禅の修行においても慣れることの恐ろしさは、初心のときの感激が失せて、惰性となり、形だけのものになることであります。
 うっかりすると、それは形だけのものになり、形を生む元である心がそれに伴わなくなる恐れがあります。
 私自身、剣道でスランプに陥った自らの経験からも、我流の稽古に慣れ、真剣さを失い、基本をおろそかにした結果、スランプに陥ったという苦い経験を味わっております。
 しかしながら、幸いにも坐禅との縁ができ、坐禅を続けたお陰で、基本をおろそかにしない本来あるべき稽古に戻れたのでございます。

真覚

 

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