「座禅の効用」その10「自利利他と慈悲心」
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「座禅の効用」その10
丸川春潭
いままでのところでは、人間形成の禅の効果効用は、ただ自分だけが人間形成によって力を付け、一人で良い気分になるように受け取られる危惧もありますので、座禅の目的や方向性について、少し述べさせて頂きます。
利他心・慈悲心が出てくるのは、効果効用とは少し違いますが、一見関係がないと思われる三昧の境地と利他心が密接に関係していることを検証しておくことも必要かと思い項目に入れました。
(1)自利と利他
人間禅『立教の主旨』の第一項にある「自利利他の願輪を廻らして」の中の自利の部分は「本当の人生を味わいつつ」であり、利他の部分は「世界楽土を建設する」に符合すると一応は考えられるのですが、本当にそうでしょうか?拙文『立教の主旨』の提唱録(『禅』誌)を参照いただきたいのですが、自利と利他は表裏の関係で、実は別物ではないのであります。
磨甎庵老師は常々正しい発菩提心を説かれ、利他心がなければ自分の修行を全うできないと強調されておられました。大乗仏教に於ける人間形成の修行においては、自利だけということはあり得ないのであります。
(2)利他には、吾我が残っていてはできない
利他の基本は「他に合掌する」ことであり、その基盤は色蘊空であり、仏教の根源に繋がっているのであります。すなわち「天地と我と同根 万物と我と一体」が肚に入っていてはじめて、他を我が面と見、自他の畦を切ることができるのであります。
この「天地と我と同根 万物と我と一体」には、ちっぽけな吾我はいささかも入ってはいないのであります。そして他に合掌するということにおいても同様であり、利他行の中にもいささかも吾我の意識が入っては利他にならないのであります。
ちっぽけな自我が残った状態では、利他ができないし、利他に対して腰が引けてくるものです。ちっぽけな吾我が少しでも混じった利他では、その成果が直ぐ気になったり、なかなか思ったように届かなかったりすると直ぐ疲れたり厭になったりするものであります。また他に対する働きかけがどんどんできたとしても、ちっぽけな自我がまざっていては、相手の方が嫌がるというものであります。
(3)利他には必ず自利は包含されている
自利は自分の中にある仏を明確にしていく修行であり、自分の中の仏に合掌することであり、この自利は自己中心の自利とは全く違います。このちっぽけな自我が入らない自利が源になって、ここから利他は湧き出てくるものなのであります。そして「天地と我と同根 万物と我と一体」となって、自分の中の仏と同じものを他の中に見ることから始まる利他には、自利と地続きであることが本来的であるのであり、自利から切り離された利他はあり得ないのであります。
この本来の自利が進められるということは、三昧が深まることであり、その地続きの利他行が自然に働き出すのは、三昧が身に付かなければできないことであります。
(4)慈とは与楽、悲は抜苦
利他の究極は慈悲でありますが、慈悲の慈は他に楽を与えることであり、悲は他の苦を抜くことであります。まさに菩薩行であり、まさに三昧が深く身に付き相続されなければできないことであり、此処まで来ると、自利とか利他とかの区別のできないそういうものを超えたところの自然の働きであります。これが深い三昧から出てくるのであります。
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